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文芸部

2020.06.15

文芸部

リレー小説 最終回です!

こんにちは。リレー小説の六番目、アンカーを担当しましたニネです。

初めてリレー小説を体験しました。最後ということもありとても緊張しました。上手く書こうとするあまり少々長くなってしまいました……。
自分なりに精一杯頑張りましたので、良い締めになっているといいなと思います。

興味のある方は是非文芸部へ!

────

亮さんはこちらを振り向かずに、静かにバスルームを後にした。曇った扉の向こうに、何の迷いもなくスムーズに準備を進める彼のシルエットがぼんやりと見える。間違いない。亮さんは本気だ。本気で柚月を説得しようとしているのだ。

一方の僕はといえばまだ信じられない気持ちだった。確かに亮さんの推理は筋が通っていたけれど、あの天真爛漫でみんなに好かれる柚月が、家族の企てたテロに加担などするだろうか。あんなに楽しそうに歌うただの女の子が、私怨を晴らす計画に何の抵抗もなく従うだろうか。楽しいことを一番に考える彼女なら、むしろそんな暴力的な手段に走ろうとする家族をどうにかして止めようとするのではないだろうか。

……でも、「違う」と言い切れない自分がいる。彼女は何も知らない、何にも関わっていないと断言できない自分がいる。何故かは分からないが、亮さんの言葉を聞いているうちに、そう思ってしまった。

僕は俯き、僅かに揺れる水面を見つめた。
もし本当に家族に強要され、柚月が関与しているのだとしたら。
僕の脳裏に事件発生時の景色がフラッシュバックした。空中都市の壁が破壊される轟音、立ち上る黒煙、雨のように地上に降り注ぐ尖ったガラス片……そしてこれから更なる事件が起こるのかもしれない……。

僕は胸に燻り始めた不安にいてもたってもいられなくなり、亮さんの後を追って湯船から出た。そのままの勢いで脱衣所に入ると、とっくにいなくなったと思っていた亮さんがまだそこに立っていた。亮さんは黙って僕のことを見ている。どうやら、さりげなく待ってくれていたらしい。

「すみません、ちょっと……話の展開があまりに急で、現実味がなくて……」

僕は酷く動揺しているのを誤魔化すように手早く準備をしながら、ぽつぽつと呟くように言った。

「とにかく、確かめよう。な?」

亮さんは僕の肩を軽く叩き、見かけによらず強い力でそのまま僕を引っ張り柚月のいる場所に連れて行った。

柚月は横向きで椅子に座り、俯いていた。どこか虚ろな目で床の一点を見つめている。あんな柚月の顔を見るのは初めてだった。

「あ、二人とも。湯加減どうだった?」

僕が呆然としていると、ナミさんが現れ、僕達に声をかけた。柚月はその呑気な声にハッと我に返り、僕達に気づいた。僕と目が合うと柚月はいつもの朗らかな顔に戻ったが、僕の方は頬が引きつって上手く自然な表情を作れている気がしなかった。

「ああ、丁度いい温度だったよ」

亮さんは簡潔に答え、柚月の席の向かいに座った。僕もそっとその隣の椅子を引いて座った。柚月は無言で、特に意味もなく流していたテレビ───例の事件の映像が繰り返し放送されている───を眺めている。

しばしの沈黙を挟み、亮さんがリモコンのボタンを押してテレビを消した。すると柚月は反射的に亮さんの顔に視線を移し、彼のいつになく神妙な表情を見て固まってしまった。

「ゆず、体調悪いのか? 顔色も悪いし、元気無さそうだけど」
「……ううん、全然平気だよ。ちょっとあの映像見て、その時のこと思い出しちゃっただけ……」

亮さんの問いかけに、柚月は微笑んで首を振る。しかし、やはり疲れが滲んでいるように見えた。僕は見慣れない彼女の様子に、思わず唾を飲み込んだ。

「単刀直入に訊きたいんだけど……この地下壕は本当に占い師に言われたから作られたのか? あまりにも用意周到過ぎる」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。まるで、事前にあの爆発が起こることを知っていたみたいだ」
「ちょっと!」

不審そうに二人のやり取りを見守っていたナミさんが、柚月の横に駆け寄ってきた。

「それ、どういうこと? 何が言いたいの?」

厳しい顔をしてテーブルに両手をつき、亮さんに詰め寄る。それはそうだ。大切ないとこが、遠回しに信じられないような疑いをかけられているのだから。
しかし亮さんは動じることなく、彼女と顔を合わせた。

「つまり、ゆずの一家がこの事件を仕組んだんじゃないかってことだよ」

亮さんは遂にそう口にした。柚月の表情が明らかにこわばり、覇気をなくした瞳に一瞬怯えの色が走ったのが僕にははっきりと分かった。

騒然としている地上と比べ穏やかな地下壕の冷え気味の空気が、静かな緊張で張り詰めた。

ナミさんは酷く困惑しながら、小さく乾いた笑い声を漏らした。

「何よ、それ……変な冗談やめてよ。だってゆずは、爆発の瞬間、瑞樹くんと一緒にいたのよ。そうでしょ?」
「は、はい。一緒に目撃しました」

突然名指しされ、空気に飲まれるように押し黙っていた僕は若干上擦った声で答えた。

「だったら、ゆずは無関係ってことじゃないの?」
「勿論、優しいゆずが事件の中枢を担ってるなんて初めから考えてないよ。俺は、多分、避難を任されているくらいじゃないかと踏んでる。きっと主に行動していたのは、こんな凝った地下壕を作るような家族の方だ」

隣に座る亮さんは、努めて淡々と説明しているように見えた。混乱するナミさんを前にして、自分まで感情的になる訳にはいかないと思っての制御なのかもしれない。

「そ、そんな……でも、どうしてそんなこと……空中都市を爆発させて、一体ゆずの家族に何の得があるっていうの?」
「ここには、数日間難なく生活できるような設備が万全に整えられてる。ただあの空中都市を破壊するのが目的なら、そんな準備は必要ない」
「だったらどうして!」

ナミさんは噛み付くように身を乗り出した。テーブルがバンと音を立て、空気を熱く震わせた。
僕は反射的に縮こまった。

柚月は項垂れたまま動かない。

「どうして、どうしてゆずの家族はそんなことをしたのよ。あの空中都市に恨みのないゆずまで巻き込んで。……あの映像見たでしょ? ただ都市が壊れただけじゃなくて、人が亡くなってるのよ!」
「……でも、俺の仮説が正しければ、あれはまだ序章だ」

柚月の腕が、小刻みに震え出した。

「序章? まだ続くってこと?」
「そう。最終目標はその続きにあるんじゃないかっていう話さ……例えば───」

「大、洪水」

涙の前触れを含んだ声に、僕の心臓が高鳴った。

「柚月……」

彼女の名前を呼んだ。
耳を澄まさなければ聴こえないような、小さな声だった。しかし、彼女の衝撃的な言葉が一瞬でその場の注目を集めた。

柚月はふっと顔を上げた。彼女の目には、大粒の涙が溜まっていた。

「そう。『大洪水』が起きるの。本当の洪水かは分からないけど……この街が、この街がまっさらになっちゃうようなことが起きるの。あの爆発とは、比べ物にならないようなことが……」

あの明るい柚月の、後悔に満ちた独白。あんなに綺麗な歌声を響かせていた彼女の喉が、こんな聴いていて胸を抉られるような声を出している。
僕は絶句した。

「あの空中都市ができるってなった時、私の親は激しく反対した……それでも、その反対は押し切られた。平等が崩壊した、っていつも嘆いてた……それで、私の知らないうちにこの計画が進行してて、協力しろって言われて……勿論嫌だったよ。何度も何度も拒否した。でも……」

そこで言葉に詰まり、柚月は息を吸った。

「『あんな壁があったら、どんな音もどんな歌も無力なノイズに成り下がるんだぞ』って言われて……何でかな。私、もう拒む力も、反論する力も残ってなかった……」

糸がぷつりと切れたように、彼女の目から涙がぽろぽろとこぼれ始めた。

「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……!」

地下壕全体が深海に沈んでいくように、感情の圧力に支配されていく。空気がその力に押され自由を失っていく。息の詰まるような沈黙が降りてくる。

「……そう、だったんだな……ゆず、気付いてあげられなくて、本当にごめん。……でも、俺には他の人を犠牲にして生き残るなんてできない。ゆずにも、そんな重荷を背負って欲しくない。
犯してしまったことはもう取り消せないけど、まだ、立ち上がることはできる」

亮さんが、柚月に語りかけた。

「……ゆず、私からもお願い。私達がゆずのことを守る。見捨てたりしないから。だから……」

ナミさんも、涙ながらに彼女の手に手を添えてそう言った。

柚月は何も答えない。ただ、テーブルに水玉模様を彩っている。

僕もまた、彼女に何を言えばいいのか分からなかった。ずっと淡い目眩に襲われ、世界がぐるぐる回っているような気がした。……僕は柚月のことをよく知っているようで、何も知らなかった。

「……柚月、壁は壊されたんだよ」

僕は必死に言葉を探した。

「だからさ、もうノイズじゃないんだよ……」

柚月はゆっくりと、何度も頷いた。

───柚月の情報提供によりテロは防がれ『大洪水』が訪れることはなかった。また、二度と空中都市が復活することもなかった。

全てが終わったあと、柚月は亮さんやナミさんと共に遠くへ移って行った。
会いに行って良いか尋ねると、快く了承してくれたので、ギターを持って行こうと思う。

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