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文芸部

2018.11.14

文芸部

2年生リレー小説『絵空事』最終回

二年生のリレー小説の最終回を担当させていただく、八一と申します。
現在二年生部員は私を含めたったの三人しかおらず、文字数が足りないと嘆くこともありましたが、このたび無事に書き切ることができました。
普段オリジナルで書かせるとそれぞれの個性と感性を爆発させる私たち。
類似点を見つける方が困難な三人が「恋愛」をテーマに書き始めたら、どんな物語になるんだろうか、そもそも着地できるのか?という不安を抱えながら始まった今回のリレー小説。
何事もなく完結できたことを嬉しく思います。
修学旅行や兼部している他の部活動、日々の課題と忙しい中ここまで繋げてくれた二人に感謝します。

それでは、私たちの『絵空事』をお楽しみください。

唾を飲む音がはっきり聞こえるほど静かな空間が訪れる。
すぐに返答を欲しいと思う反面、楓汰に失望の目を向けられることが何よりも怖かった。目を合わせたくなくて瞼をギュッと閉じると、肌寒くなった風が頰を優しく撫でていく。その場を立ち去る勇気も出なくてとどまっていると、紙に触れる乾いた音が聞こえた。恐る恐る目を開けると、楓汰が私のテスト用紙の皺を丁寧に押し広げている。
「ごめんなさい……」
結局沈黙に耐えきれなくなったのは私の方だった。楓汰は私の吐息のような謝罪に少しも反応を示さなかった。ただ私が寄せた皺を、破れないようゆっくり伸ばすだけだ。
「僕はさやちゃんの負担になってるんだね」
感情を含めずに彼はそう言った。私の胸中では嵐が吹き荒れて収まりがつかなくなっているのに。
「別に、楓汰を責めてるんじゃないよ。ただ私が馬鹿だっただけ。それだけだから」
「そんなことはないよ。さやちゃんがどれだけ頑張ってたか、僕が一番知ってるし」
再び沈黙が訪れた。胸にもやもやしたものが留まって体中を掻きむしりたい衝動に見舞われる。彼の回りくどい言い方がかんに障った。
「楓汰は他人事だからそんなこと言えるんだよ。頑張ってても意味ないじゃん、結果が全てなんだから」
机にのった答案用紙が目に入る。楓汰の手によって広げられたそれには赤ペンで点数が書いてある。赤い数字は滲んだ視界の中でもはっきりと存在を主張してきた。決して目を逸らすなとでもいうように。
「さやちゃんなら大丈夫だよ。今は成果がでないかもしれないけど、もう少し、もう少し耐えればきっと良くなるよ。僕は、僕が好きになった、僕のことを好きって言ってくれた君のこと、信じてるから」
「綺麗事いわないでよっ」
私は固めた拳を机に思い切り打ち付けた。木製の板は思いの外大きな音を立てて揺れる。強く当たった小指が熱を持って痛みだしたが、それにほとんど意識が向かないほどにこめかみがジンジンと脈打っていた。鼓動の速さに合わせて脳が揺さぶられる。
「信じてるって何? 勝手なこと言わないでよ、私のこと過大評価しないで。私は、私は、楓汰に慰められたくて話しに来たんじゃないの。そうじゃなくて、私は器用じゃないから、楓汰と一緒にいると他のことがダメになっちゃうの。だからもう一緒にいたくない。そういう自分勝手なやつなんだよ。だからそんな良いように言わないで。私は楓汰が考えてるようなやつじゃないんだよ」
私は精一杯喋った。自分の中にあるモヤモヤした抽象的な感情をどうにかして伝えたいと思った。けれど感情ばかりが先走って肝心の言葉が上手く出てこない。怒りと焦りと悲しみと、そして情けなさ。全てがごちゃまぜになって泣き出したい気分だ。それでもプライドだけは消えないので、いっそのこと楓汰が私のことを嫌いになってくれればいいと願った。これ以上彼の前で醜態を晒していたくない。
「じゃあ僕、……待ってるよ。さやちゃんが僕と一緒にいたいと思ってくれるときまで待ってるから」
「……無理だよ。私達、もう一生付き合えないよ」
自分で言い出したことなのに悔しくて涙が出てきた。もしこうだったら、ああだったらなんて空想ばかりが頭をよぎる。袖でこすった目尻が痛んだ。
「さやちゃん……」
楓汰が何か言おうとしていたが、私はそれを振り切って走り出した。周りの目なんて気にせずに、スカートを翻してみっともなく駆けていった。

◇◇◇

春の香りを孕んだ風が僅かにのびた前髪を揺らす。桜の枝にはぷっくり膨らんだ芽が溢れそうなほどついていた。見上げると雲一つない真っ青な空が流れている。私の心の中もぽっかりと空き、行き場なくただ空虚に過ごす日々が続いていた。
楓汰と別れたあの日から、私は努めて彼のことを忘れようとした。自分の記憶の中から彼を追い出して、自身のことだけを考えていた。あの日から何かに取り憑かれたように勉強に没頭した結果、少しずつ成績を伸ばして志望校に受かることはできた。しかし、それを素直に喜べるほど私はまだ楓汰のことを忘れていなかった。後悔だけが先延ばしになって気分がちっとも晴れなかった。それでも月日だけは過ぎて行って、あっという間に私たちは卒業する。
「もう、楓汰とは会えないんだね」
冷たい雫が胸元に落ちる。自分から離れていったくせになんて嫌な女なのだろう。我ながら最低だ。悔しくて悔しくてたまらない。もう一度、楓汰に会いたい。会って謝りたい。付き合ってなんて、仲良くしてなんて言わないから、また会って謝りたかった。面と向かって話したかった。
「楓汰……」
「なに、さやちゃん」
穏やかで懐かしい声に振り向くと、彼が立っていた。

「僕と君の関係は、絵空事なんかで終わらない。全部、これから、真実にしていこうよ」

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