文芸部

リレー小説③

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こんにちは。三番手は私、爽が担当させていただきます。
少し短くなってしまいましたが、楽しんでいただけましたら幸いです。

◆◆◆

 家族ごっこを始めて、既に一年。ここの暮らしにも随分と慣れたものだ。大抵はパパとママと毎食を共にし、それはそれは本物の家族のように過ごした。パパもママもごく一般家庭並みの(と言ってもプログラムにある"家族"が本当に一般的なものなのかどうかは微妙なところだが)親のように振る舞っていたし、私も、普通の娘のように二人の手伝いをすることだってあった。
 生活の中で、するべきことはたくさんあったが、中でも最も大変な手伝いは拾い上げた紙を番号順にファイリングして、棚へ戻す作業だろう。あぁ、今週何度同じ書類を見たことか!

「パパ、いい加減部屋を片付けてくださいと……」
「そのうち片付けるって言ってるじゃあないか!」

 まるで子供のように振る舞うパパに心底冷たい視線を送ると、少しばかりは反省したようで大人しく散らかしに散らかした書類やらノートやらを片付け始める。最近のパパはよくこの部屋に篭って、夜なべで作業していることが増えた。

「パパ、最近は何の研究をしているのですか? 根詰め過ぎるとただでさえ怠けてボロボロのお身体に障りますよ」
「アイ? ママの料理でも手伝ってきたらいいと思うんだ、ママ、きっと喜ぶよ」

 パパは私と目も合わせようとはしなかった。それどころか、まるで子供が自分の描いた絵をそうするみたいに、身体で資料を隠した。こうなっては、"奥の手"を使うしかない。

「パパ。可愛くて愛おしくてしょうがない私(娘)のお願いをきいてはくれないのですか?」
「どこでそんな言葉を覚えてきたんだ! パパはそんなこと教えたつもりないぞ!」
「パパが教えたから覚えてるんですよ」
「そうか……」

 そうか、ともう一度パパは考え込むように言った。

「……この家には、以前__他に誰かが住んでいたのではないですか?」

 パパの眉が、わずかに動いた。

「まぁ、いいです。私はママの手伝いをしてきますね」

 "それ"で十分だった。