文芸部

リレー小説⑦

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暁霞王子です。
期限を大幅にすぎてしまい申し訳ありません......!
短いですがぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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それから約半年が過ぎた。私はこの場所について何も知らない。毎日同じ、単調な作業をして一日を過ごす場所。単調な作業は時に過酷な作業と化す。それは疲れを感じないこの身でさえ限界だと思ってしまうほどの労働。その多くは精神的なものによるのだろうが、つまりは人間の身体に耐えられるようなものではない。私がここにきたばかりの時にいた人間は理由はお察しだがおおよそここを去っている。
常に足りない労働力と比例して増える仕事量は悪循環を生み出し、壊れない私に皺寄せがくる。全く度し難い事だが、仕方のない事だろうと諦めている節があるのは否定しない。手を抜けばいいじゃないかと思う?手を抜いたらそれこそ「壊されて」しまうだろう。今私をここまで突き動かしているのは、夜な夜な見る夢ーという名の幻覚を伴う記憶の再編成ーだ。実際に経験した、あったかもしれない未来。いたかもしれない自分。あまりにも現実味を帯びすぎたその夢は、自分に真実を知ることを求めているように思えるのだ。

自分がここに来てから管理人は3回ほど変わった頃だった。管理人は総じて年寄りが多く、入れ替わりが激しかった。
青年とも言い難い、どちらかといえば壮年のどこにでも居そうな中肉中背の男。総じて平凡な男が新顔として入ってきたのはそんな時だった。彼は今まで病院で働いていたらしい。それ以外は知らない。どんな理由でここへ来たのか、家族はいるのか、名前はなんというのか。彼は自分のことを話したがらず、私も詳しく聞き出そうとはしなかった。お互いの素性をよく知らないまま1週間が過ぎようとしている。そんな折だった。
私と彼は精神的な年齢差は(それこそ父と娘ほど)あれど、世間話は良くする仲であったため、労働を終えたあと、いつものように世間話をしていた。私はふと思い立って、いつも見る夢のことを彼に話した。彼は相槌を打ちながら楽しそうに話を聞いてくれた。話のキリがついた時、そういえば、と彼は思い出したように呟いた。

「夢といえば、私が働いていた病院に興味深い男がいたんだ」

聞いてくれるかい?と言われ、断る理由もなく首を縦に振る。
彼は遠い記憶を思い出すようにまぶたを閉じた。

その患者は見た感じ70~80代の男だった。昔は知る人ぞ知る大科学者だったというが、真偽は分からない。その男は老衰のために床に臥していたが、軽い精神疾患を患っていた。どうにも娘を亡くしたらしい。......いや、亡くしたわけではないのかな、ともかく娘がいなくなってしまったらしい。その男と妻の間には長い間子に恵まれなかったらしくてね。幾度かの流産の後ようやく生まれたかわいい娘だったそうだ。娘がいなくなってからすぐ精神疾患を患ったそうでね。可哀想なことで、それからは娘との思い出を捏造してしまうようになったんだ。

「彼は本当にあった出来事だと主張しているが......彼が話す出来事はみな、娘が12歳になった時の話なんだ」

子供は一人しかいないのに話ばかりは50以上もあるなんてバカげた話あってたまるかよ、と彼は軽やかに笑った